それ、本気で聞いてます? 僕に「ポリティカル・コレクトネス」の話をさせたら長くなりますよ?

僕のTwitterのタイムラインに「ポリティカル・コレクトネス」という単語を見かけるようになった。

「ポリティカル・コレクトネス」自体はともかく、「ポリティカル・コレクトネス」的な正義感をもとに人の行動を制約すること、またそのような正義感で守られるべき人を守っていないこと、などが反感を買っているようだ。

僕は現在アメリカに住んでいるので、「マイノリティー攻撃ご勘弁を」モードなのだ。そんな自分の考えをまとめてみた。

コレクトネス指向

僕個人は「ポリティカル・コレクトネス」(以下PC)に準じて発言している。

というのも「コレクトネス」というだけあって、「正しさ」指向だからだ。

僕のいとこは看護師なのだが、「看護婦」と呼べ、と言われると「婦じゃねーし」と思う。

かつての保健婦助産婦看護婦法が、保健師助産師看護師法に名前を変えたのは、現状に合ったものだ。

時代によって言葉を変えたほうがいい例として「お米を研ぐ」という言葉がある。昔は精米技術が発達していなかったので、米の表面についたぬかをゴリゴリこそぎ落とす、つまり研ぐ必要があった。2016年現在となっては、米は軽く洗うイメージでよい。言葉の「コレクトネス」としては、「お米を洗う」のほうが高い。

僕は、現状に合わなくなった表現が淘汰されていくことはよいことだと思う。

セーブボタンからフロッピーディスクの絵もなくなっていくだろう。カーチャンがずっと家庭用ゲーム機のことを「ファミコン」と呼ぶのは、しょーがねー。

ここまでの「ポリティカル・コレクトネス」には反対する人は少ないと思う。

黒人の代わりにAfrican Americanを使うときのように「ポリティカル・コレクトネス」な言い方で正確さを欠く場合もあるだろうが、基本は「コレクトネス」を大事にしようという方向性をもっている。

すごくまわりくどい婉曲表現を使うよりは、人を攻撃しない

差別的な表現を減らしていこうという運動のなかに、すごくまわりくどい言い方を使って差別的な表現を回避するものがあります。

「貧乏」を「economically challenged(経済的に恵まれていない)」と言い変えたり、「ハゲ」を「hair disadvantaged(頭髪に恵まれない)」と言い換えたりするヤツ。

元の言葉そのものが「看護婦」のように間違っているわけでもない。言い換えによって文字数も長くなるし、指している概念もぼやけます。

個人的にはそれらの語が持つ攻撃性をゆるめるために「お金がない」「頭髪が薄い」と言うだろうけど、救いのなさはあんまり変わってないですよね。

そういう言葉を使って、人を攻撃するヤツがいます。それは事実なんでしょうが、婉曲的な表現にしたところで状況は良くなりません。「人を攻撃するな」で十分。

PCが「言葉狩り」として嫌われることがあるのは、こういうまわりくどいわりにメリットが少ない言い回しも理由のひとつでしょう。

「政治的に正しいおとぎ話」という本で、こういうまわりくどさのおかしみを堪能できます。

政治的に正しいおとぎ話

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右翼化する弱者救済運動とポリコレ棒

松尾匡のページ 用語解説:右翼と左翼 というページがあります。彼の中での「右翼」と「左翼」を定義したものです。

本来は上記ページを読んで欲しいところですが、以下に僕が要約した箇条書きがあるので、まあざっと読んどくれ。

  • 右翼と左翼は、世界の切り分け方が違う
    • 右翼: 世界を「ウチ」と「ソト」に分けて、「ウチ」に味方する
      • 世の中を「縦」に切る
    • 左翼: 世界を「上」と「下」に分けて、「下」に味方する
      • 世の中を「横」に切る
  • それぞれの立場は、以下のような人たちを敵とみなす
    • 逆右翼: 世界を「ウチ」と「ソト」に分けて、「ソト」に味方する
      • 例) 日本国内における、北朝鮮の現政権擁護派
    • 逆左翼: 世界を「上」と「下」に分けて、「上」に味方する
      • 例) ホリエモン
  • 右翼が言う「左翼」は逆右翼、左翼が言う「右翼」は逆左翼であり、違和感を与えがち
  • それぞれの立場に徳がある
    • 右翼: 身内のために互いに尽くしあう。「武士道」
    • 左翼: 強くて不正な「上」にひるまず、「下」に手を差し伸べる。
    • 逆右翼: 発展途上国の伝統村落に惚れ込み骨を埋める。
    • 逆左翼: 出資者・取締役・客が何人であっても分け隔てなくする。「商人道」
  • 立場の自覚と現実にギャップがあると、よくない結果がもらたされる
    • 「逆左翼」なのに「右翼」自覚: 「ウチ」に格差と競争を持ち込んで共同体を破壊しつつ、国や民族で差別する。
    • 「逆右翼」なのに「左翼」自覚: アメリカでの9.11テロで「下」の被害者も多いのに同情心を持たずに喝采する。発展途上国の政府や因習による人権抑圧を無視しつつ、自分の権利が侵されると、欧米流民主主義体制のおかげで守られた立場を使って、政府にも因習にも逆らう。
  • 日本での反米左翼がなぜネジれているのか
    • かつてははアメリカが「上」、日本は「下」だった
      • 反米は、「下」に味方する左翼
    • 今は上下がうすれ、アメリカは「ソト」、日本は「ウチ」となった
      • 反米は、右翼に変わった
  • 対中国でも同じような移行がある
    • かつては日本が「上」、中国は「下」だった
      • 親中は、「下」に味方する左翼
    • 今は上下がうすれ、中国は「ソト」、日本は「ウチ」となった
      • 親中は、「ソト」に味方する逆右翼に変わった
  • 世の中を縦に切るのは、国や民族だけではない
    • 「貧困者と金持ち」は世の中を縦に切っていない
      • 逆左翼は、「下」が這い上がって「上」になることを奨励する
      • 左翼は、世の中の仕組みを変えて、「下」がなくなることを目指す
      • どちらにせよ、「下」が減ることを目指す
    • 「在日コリアンと日本民族」「女性と男性」「障害者と健常者」は世の中を縦に切っている
      • 変えられないアイデンティティーによる区分
      • 被差別者の解放は、アイデンティティーをなくすのではなく、認めさせること
  • 世の中を縦に切る以上、対米・対中国と同じようなネジれが生じる
    • かつては在日コリアン・女性・障害者は「下」だった
      • そのような人に味方するのは、「下」に味方する左翼
    • 在日コリアン・女性・障害者にあこぎな資本家や私腹を肥やす組織権力者が出現する一方、日本人男性健常者の中に数多くの貧困者が生み出された
      • そのような人に味方するのは、「ウチ」に味方する右翼か、「ソト」に味方する逆右翼に変わった
  • 左翼っぽいけど左翼じゃないもの
    • 在日コリアン・女性・障害者などをまとめ、対する「ソト」に対抗する解放運動は、今日では「左翼」を自称しようが実は右翼
    • 「市民派リベラル」世の中を縦に割りながら、比較的めぐまれた主流派の立場から、「ソト」である被差別者に味方する立場。実は左翼ではなく、逆右翼。
  • 世の中を縦に切るか、横に切るかに中間はない
    • 縦の壁はくずれ、上下の亀裂は広がっている
    • 横に切る見方と縦に切る見方を混同すると、それぞれにふさわしい道徳が打ち消し合い、弱肉強食の身勝手な風潮が生み出される

「女性と男性」の場合について図を作ってみました。

松尾匡的右翼と左翼

完全に正しいとは思いませんが、面白い視点ですよね。

この定義によれば、「右翼」のひとが「逆右翼」、いわゆる「ソト」にいる人に攻撃的になるのもわかります。

Twitterで見かける「ポリコレ棒」という言葉は、「左翼」的な立場を自称しつつも、実際はある種のアイデンティティーを共有する右翼の人たちが、アイデンティティーを共有しない「ソト」の人を殴っている様子を表現したものでしょう。

かつては、「ポリティカル・コレクトネス」で守られる人たちは「下」でした。今や、どんな立場であれ「下」の人が増えている一方、ポリティカル・コレクトネスで守られている人たちにも「上」が出てきています。左翼的な弱者救済だったものが、右翼、もしくは逆右翼的な共同体維持運動に変化してもおかしくありません。

共同体維持運動そのものは悪いものではないのですが、それを弱者救済運動と呼べば、嫌われちゃいそうです。

弱者救済運動が右翼化せず、守られるべきひとが守られるような運動でありつづけるといいなあ、と思うのでした。

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まとめ

  • 現状に合わなくなった言葉が淘汰されていくのはよいこと
  • やたらまわりくどい言い回しするより、人を攻撃するのをやめる
  • 松尾匡のページ 用語解説:右翼と左翼 面白い
  • 松尾さんによる「従来左翼の右翼化・反右翼化」は、「ポリコレ棒」現象にもあてはまるのではないか
  • 弱者救済運動が松尾さんが言うところの左翼でありつづけるといいね

松尾さんの記事面白いので、広がるといいな。

あまり長くならなかったし、そもそもポリティカル・コレクトネスの話はほとんどしていないので、マクルーハンではなく、ジョナサン・ハイトでも読むことにします。

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