AT車はMT車より事故率が2倍高い!?!?

レベル4の自動運転が実現されるかどうか議論されている21世紀に生きる我々ですが、未だにAT/MT論争が続いています。

僕のタイムラインに、こんなツイートが流れてきました。

これは極端なツイートですが、ほかにもMT乗りの人によってAT車は危険だと主張されているのを目にします。

本当にそうなんでしょうか?

AT車の事故率はMT車の2倍、なの?

鳥取環境大学の鷲野翔一さんの論文「事故原因に関する交通心理学的考察と追突防止システムの試作」のアブストラクトによれば、AT車はMT車よりも2倍程度事故率が高いそうです。

詳しくみていきましょう。原文のPDFは誰でも読めるので、原文スキーはそちらを。

Fig. 2

図2は、AT車とMT車の事故率の変化です。横軸は西暦、縦軸は“事故数/車の数"で計算される事故率です。上(a)のグラフがすべての事故、下(b)のグラフは死亡事故のみに絞ったものです。この論文では、このデータを元に、AT車の事故率のほうがMT車のそれを上回っているが、死亡事故に関しては両者ともほぼ同じ値であるとしています。 Fig. 3

図3は、AT車の事故率(VAT)とMT車の事故率(VMT)を事故の種別ごとに分けたグラフです。横軸は事故率、縦軸は上から順に「右折事故・左折事故・出会い頭事故・追突事故・正面衝突事故」です。図2と同じように、上(a)はすべての、下(b)は死亡事故のみ。この論文では、上(a)のグラフを元に、正面衝突事故以外の事故ではAT車の事故率が約2倍高いとしています。

Fig. 4

図4は、AT車の事故率(VAT)とMT車の事故率(VMT)を事故のヒューマンファクタごとに分けたグラフです。横軸は事故率、縦軸は「1: 漫然運転 2: 脇見運転 3: 安全不確認 4: 交通環境 5: 動静不注視 6: 予測不適 7: 交通環境」です。図2, 3と同じように、上(a)はすべての、下(b)は死亡事故のみ。下(b)のほうが縦軸の種別が多いです。この論文では、上(a)から、AT車のほうが全ての要因について事故率がMTより約2倍高く、下(b)から、死亡事故の場合には全ての要因について事故率がATとMTでほぼ同じ、としています。

Fig. 5

図5は、AT車の事故率(VAT)とMT車の事故率(VMT)を運転者の年齢ごとに分けたグラフです。横軸は事故率、縦軸は「1: 0-17 2: 18-19 3: 20-24 4: 25-29 5: 30-39 6: 40-49 7: 50-59 8: 60-64 9: 65-69 10: 75-79 11: 80-」という年齢レンジです。上(a)はすべての、下(b)は死亡事故のみ。この論文では、上(a)から、AT車のほうが全ての年齢レンジにおいて事故率がMTより約2倍高く、下(b)から、死亡事故の場合には全ての年齢レンジにおいて事故率がATとMTでほぼ同じ、としています。

Fig. 6 Fig. 7 Fig. 8

図6, 7, 8は、AT車の事故率(VAT)とMT車の事故率(VMT)を運転者の年齢ごとに分けたグラフです。横軸はそれぞれ、図6は出会い頭事故率、図7は追突事故率、図8正面衝突事故率、縦軸は図5と同じ年齢レンジです。

図6の出会い頭事故に関して、この論文では、図5と傾向が似ているとしている。

図7の追突事故に関して、この論文では、上(a)では図5と傾向が似ているが、下(b)では年齢によってATのほうが死亡率が高かったり、MTのほうが死亡率が高かったりするとしている。

図8の正面衝突事故に関して、この論文では、上(a)ではATとMTで事故率はほぼ同じであり、下(b)では全年齢においてMTのほうがATより事故率が同じか高い値を示している、としている。

図1はAT車の普及率なので省略しましたが、これらが先の論文で紹介されたデータです。

論文では、以下のようにデータを解釈している。

  • 正面衝突を除いて、全事故においては、AT車の事故率はドライバの年齢やヒューマンファクタに関係なく、MT車のそれの約2倍高い
  • 正面衝突では全ての事故においても死亡事故においてもAT車の事故率はMT車の事故率とほぼ同じ値を示している
  • 死亡事故においては、すべてのケースにおいてAT車の事故率とMT車のそれとは概ね同じ値である

論文のデータ見た感想

僕がまず感じたのは「その比較が統計学的に有意なのかわからない」です。生データが公開されると有用そうなので、ぜひとも公開をば。

この論文のデータの読み方が正しかったとしましょう。正面衝突事故もしくは死亡事故ではATとMTは事故率が同じ、それ以外はATのほうがMTより事故率が2倍高い、というわけです。

なんでや。

停止状態からの急加速仮説

同論文で、鷲野さんは、「注意容量の隙間モデル」によって説明を試みています。同分野で提案された既存のモデルを拡張したもののようです。

オッカムの剃刀マンとしては、もうちょっと簡単なモデルのほうが好みです。グニャ池情報量規準(モデルの理解のために僕の頭にかかる負担)が低くない。

以前友人と上記のデータを見つつ話したことがある。彼の仮説は「ATは停止状態からの急加速がペダルひとつ踏み込むだけでできるからではないか」ということだった。

正面衝突以外の4事故は、右折事故・左折事故・出会い頭事故・追突事故の4つ。正面衝突は急加速とはあんまり関係なさそうで、それ以外は関係がありそう。

ATが全体での事故率は高いのに、死亡事故では事故率に変わりがないのは、「停止状態からの急加速」なので速度は小さく、結果として死亡事故につながりにくいのでは、と話していた。

すべてのデータをよく説明している仮説ではないけれども、単純で気に入っているし、自分もATの車を運転しているときには停止状態からの急加速をなるべくしないように心がけている。

運転者のスキルが違う説

あると思います!

まとめ

  • 正面衝突事故率や死亡事故率に関しては、AT車/MT車で差はみられない
  • 右折事故・左折事故・出会い頭事故・追突事故に関しては、AT車のほうが事故率が高い
  • AT車は停止状態から急発進がやりやすいのが非死亡事故率の高さにつながるのでは仮説
    • もしそれが正しければ、急発進を止めれば、事故率は減りそう

自動運転はよカモン!

Disclaimer: 筆者はAT限定免許もちです。