Immutable Infrastructureから発想する住宅規格の一形態

神の島のコンテナ4階建の家(http://imweb.ne.jp/container/kouri_001.htmlより引用) http://imweb.ne.jp/container/kouri_001.html より引用

さて、前回のエントリでは、ガベージコレクションというコンピュータ用語を(無理矢理)援用しながら、部屋の片付けには「引っ越し法」がよいのではないかと結論づけました。

しかし、引っ越し法を実践するためには、引っ越し前の部屋と引っ越し後の部屋が必要となってしまいます。なんとかコストを下げることは出来ないのかな。

Immutable Infrastructure

IT業界、おもにWeb業界のなかで、Immutable Infrastructureという言葉を目にすることがあります。

ざっくり説明すると、「あるサーバを何度もちょこちょこ上書きして設定するのではなくて、新しく設定したサーバを既存のものと入れ替えて、既存のものは捨てればいいんじゃね?」という話です。ちょこちょこ上書き設定する代わりに、全く新しい環境を作り、それはいじらない(=Immutable)。

最近「クラウド」という用語が流行っています。「クラウド」の定義はあいまいです。ここでは、物理的なサーバを買うのではなく、プログラムなどを通して、自動的に利用権の購入・廃止ができる仮想的なサーバ、と定義しましょう。

仮想化されたサーバというのは、物理的なサーバではないが、物理的なサーバと同じような機能を提供するものを指します。

クラウドでは実際のサーバを借りるのではなく、実際のサーバ上に作り上げられた仮想のサーバを利用します。サーバの仮想化は、サーバが論理的に規格化されているからこそなせる技です。規格を満たせば、仮想化が完了するわけです。

クラウドにおいては、仮想サーバはプログラム上の命令1つで簡単に増減することができます。プログラムで部屋を自動的にレンタルできるようなイメージです。

と、いうことはですよ。すでに稼働しているサーバに対して、その動作に影響を与えないよう慎重に設定を上書きするようなことは避けられちゃいます。新しい設定を含んだサーバ一式を別途用意して、まるっとサーバ群を置き換えることがクラウド上で低コストで出来ちゃうからです。

あれ、新しいサーバを別途設定して、そこにまるっと切り替えるっていう方法、「引っ越し法」に似てません?(強引)

新しい住居を低コストに作って、そこに必要な荷物を持っていき、古い住居を破棄すれば、あら部屋が掃除できてる!これですよ!これ!

でも、住居って仮想化できないですよね。実際の物体ですし。

なんとか、クラウドからヒントを得ることはできねーかなー。

クラウドを提供している会社は、仮想化されたサーバを実現するために、実際のサーバ設備を大量に持っています。それらのサーバはどのように設置されているのでしょうか。仕組みを知れば、なんかヒントがあるかも!

サーバラックによるサーバの集積設置

サーバラックという物体があります。小さな企業であれば、オフィスの片隅においてあるのを目にしたことがあるかも。こんな感じの金属製の箱です。

サーバーラック(サンワサプライWebサイトより引用) サンワサプライWebサイトより引用

サーバラックは、平たい形をしたサーバやネットワーク機器などを差し込んで使うための箱です。

サーバラックは、19インチラックとして標準化されています。差し込む機器が何段の高さを占有するか、というのを、1U、2Uのように表します。1Uの高さは1.75インチです。

サーバラックと、それに格納される機器それぞれに物理的な規格があります。サーバラックを使うことによって機器を積み重ねて設置できます。

これを住宅に援用すれば、たとえ東京のような都市部でも、集積度高く住宅を配置できそうです。このような状況になれば、仮想化まではできなくても、住居の集積度を上げることができます。すなわち、住居あたりの土地代は安くなり、ひいては引っ越しが気軽に出来る状況が生まれる、というわけです。

日本の都市部で規格化された住宅を積み上げたような建物ねえ……おお、あれがあるやん。

中銀カプセルタワービル

中銀カプセルタワービルという建築物がある。黒川紀章設計の、いわゆる「メタボリズム」建築である。

中銀カプセルタワー (著作権者:Wiiiさん、ライセンス:クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0 非移植 引用元

中銀カプセルタワービル、僕の理想とする形に近い。規格化されたカプセルが積み上がってる!

それぞれの住居のカプセルは交換可能となっている。だが、結局カプセルの交換は行われたことはないようだ。中銀カプセルタワービルのカプセルは、規格化はされているが、標準化はされていなかった。つまり、交換するカプセルを作ることが高コストということになる。また、交換作業自身も難しいようだ。となると、作るのも取り付けるのも高コストということになる。

大量生産され、どこにでも安価で手に入るものを「カプセル」としないと、コンセプト自体が経済的に成り立ちそうにない。

コンテナ物語

コンテナ物語という本がある。

ビル・ゲイツが2013年でいいと思った7冊の本の中にも入っている。俺読んでないけど。

物流においてコンテナという規格が果たした役割について指摘した本だ。コンテナは単なる規格ではあるのだが、その規格によって、世界経済に強いインパクトを与えていくさまが記述されているらしい。

ん、待てよ。コンテナってよく港とかに積み重なって置いてあるよね。じゃあ、コンテナの規格に基づいて家を作ればいいんじゃないか。

広義のクラウドによって、書籍や音楽のデータをサーバ上に置くようになってきている。物理的な物体は家から減るいっぽうだ。コンテナで十分住めるんじゃね?

コンテナ型住宅

もちろん、コンテナを用いた住宅はすでに実現されている。

まずは、仮設住宅である。東北地方太平洋沖地震における仮設住宅などの例がある。しかし、仮設ではない住宅ではどうだろうか。

冒頭に引用した写真は、「現代コンテナ建築研究所」によって手がけられた、デザイナー古賀智顕さんの自宅兼事務所である。

古賀さんについては、「『エロの「デザインの現場」』 - R18の想像力」のエントリを読んでもらえるとよい。URECCO!

話を元に戻す。現代コンテナ建築研究所のサイトを読むと、以下のような記述がある。

ISO海洋輸送コンテナは「建築に利用する」には面白い素材だと私も考えていましたが、構造体が「パネル構造体」であることや、鋼材がJIS鋼材ではない事などから、現実にはISOコンテナは鉄骨の構造体として日本の建築基準法をクリアする事は概ね不可能と考えられます。しかし、それでもなお、コンテナという「概念」は捨てがたい素材だったので、「日本の建築基準法をクリア出来、ISOコンテナとしても認められる、新型の建築構造用PAT.コンテナを開発」し対応いたしました。研究すればするほど、コンテナハウスには実は大きな魅力が隠れていたのです。建築用コンテナを開発して可能になったコンテナハウスの世界のご紹介です。その大きな特徴は「ロジスティクスを内包する建築」ある意味、メタボリズム建築なのです。

もちろん、メタボリズムへの言及がある。コンテナで交換可能な住宅、作りたいよなー(なれなれしく肩を抱き寄せながら)。

現代コンテナ建築研究所のサイトでは、いくつか事例を見ることができます。なるほどすばらしい。すばらしいんだけど、俺が欲しいものがない。

そう、僕が欲しいものは、サーバでいうところのサーバラック。

確かに、建築構造用コンテナは通常の荷送用コンテナよりは強度が高い。しかし積み重ねた場合の強度は保障できないはずだ。

より強固な構造材を使ってコンテナ住宅用の「サーバラック」を建てて、そこにコンテナをマウントできないか。

もちろん、現代コンテナ建築研究所の運営者は、そのようなことまで考えが至っているはずだ。しかし現状では、そのような状況は夢のまた夢だろう。

住居用のコンテナと、住居用のラックが標準化され、それらの実況実験を行うための特区がどこかに出来て、普及していく。そんな世の中になればいいとは思う。けど、うーん、いわゆるキャズム超えできそうにないなー。何が足りないのかな? 思いついた人は、はてブのコメントなり、Twitterの@gunyarakunにメンションを送るなりお願いします。

住宅用ラックが広がったあとの世界

仮に、世界各地に住宅用ラックが広まったら、どのような状況になるか。

トランクルームはなくなるだろう。住居とトランクルームは区別がつかない。田舎にあるため安価な住宅用ラックが、トランクルームとして使われるではないか。

住宅用コンテナは交換可能な大量生産商品となり、Amazonで買うようになるだろう。

世の中にはコンテナ型データセンターというものもある。コンテナの中にサーバラックが入っているという、物理規格イン物理規格。このように、コンテナ内での家具なども物理規格が決まるのではないか。ここには冷蔵庫をはめこんで、といったような。

トレーラーハウスというものがある。コンテナ型住居に近いもので、車両で牽引できる家だ。ただし、サイズ上での規格などは、道路交通法の基準を満たす限りでは存在しない。トレーラーハウスも、住宅用コンテナに習練していくだろう。

クイーンエリザベス号で行く豪華客船の旅!なんかも、豪華客船に自宅トレーラーをマウントしたりするようになるんじゃないかな。

まとめ

ガベージコレクションにおける「引っ越し法」を安価に行えるためにクラウドの実現方法を参照しようとしたら、明後日の方向の「コンテナ型住宅」と「コンテナ型住宅ラック」の提案になってしまいました。

Q. 部屋がコンテナ化したら、散らかった部屋ごと引っ越ししてしまうのでは?

A. うるせー馬鹿!!!

というわけで、いろいろ考えた結果僕の部屋は一生片付かない、そういう結論になりました。あらあらかしこ。

余談だが、現代コンテナ建築研究所の文書内にはたまに(PAT.)と挟まっている。(PAT.)を見ると、今日の必ずトクする一言を思い出してしまう。今日の必ずトクする一言のほうでよく見られる記述は、PAT. PEND. いわゆる特許申請中であるが、建築構造用コンテナはPAT.だ。すばらしい。