「愚者は教えたがる」パターンの格言における出典の不確かさ
あきまんさんによる、「アドバイス罪」に関するツイートをまとめたtogetterを読んだ。僕はあきまんさん派、というか、本人がイヤだと言ってるのになんでアドバイスするんじゃい派。
で、アドバイス罪はともかく。
「無知なやつほどアドバイスしたがる」、という文意をもつ格言がいくつかある。あるんだけど、出典がよく分からないものがあるのだ。
「愚者は教えたがり、賢者は学びたがる」の出典
「愚者は教えたがり、賢者は学びたがる」というの格言はよく目にする。これの出典が分からない。ロシアの作家チェーホフが言った、ということになっているようだ。
英語版の「The wise love to learn, while fools love to teach.」というのも見つかったが、Google検索の結果を見る限り、これは日本だけでしか流通していないようだ。つまり、日本語を英訳したものらしい。
ロシア語で Антон Павлович Чехов Дураки дидактические. と検索してもよくわからない。そもそも、この検索語も機械翻訳でひねり出したもので怪しいのだが。
チェーホフのどの本に載っているかご存じの方はいらっしゃいますか?
追記 2014-03-31
Twitterでチェーホフ研究者の方に教えていただきました。ぶしつけな質問にも丁寧に答えていただき感謝。まだ原典にはあたることができていないのですが、チェーホフ自身が考えた言葉ではないようです。
@gunyarakun どうもはじめまして。随分と古いつぶやきを拾われたので驚きました。この「愚者~~」はチェーホフの作品を探しても絶対に見つかりません。なぜなら、この言葉が書かれているのはチェーホフの手帳だからです。彼は作品に使う言葉やヒントになった言葉をメモする手帳を(続く)
— utiken (@utiken) 2014, 3月 31
@gunyarakun (続き)持ち歩いていたのですが、その手帳に書き留められていた言葉です。ちなみに愚者が調べたところ、中央公論社版の手帳を収めた第14巻、432ページが該当箇所でした。
— utiken (@utiken) 2014, 3月 31
@gunyarakun で、この言葉がチェーホフの名言とされてしまった原因ですが。それは恐らく、様々な作家の名言集を出した「人生の知恵」シリーズで佐藤清郎さんがチェーホフを担当していて、この手帳の言葉を記したことによるものだろうと、推測しています。(終わり)
— utiken (@utiken) 2014, 3月 31
@gunyarakun チェーホフの言葉では、82ページに載っていました。御参考までに。
— utiken (@utiken) 2014, 3月 31
Умный любит учиться, дурак учить (пословица). ちなみにロシア語原文はこうなっていて、きちんと(諺)と書かれている。つまりチェーホフの言葉ではなく、ロシアに既にあった諺をメモしたのは明らか。
— utiken (@utiken) 2014, 3月 31
ロシアでのことわざの由来も調べようかと思ったのですが、ロシア語まったくわからんちんなので挫折。
「賢者が愚者から学ぶ事の方が、愚者が賢者に学ぶことより多い」の出典
これは、ミシェル・ド・モンテーニュ「随想録(エセー)」のⅢ-8にあるようだ。。
que les sages ont plus à apprendre des fols, que les fols des sages
Google翻訳で英訳すると、The sages have more to learn from fools than fools from wise. なるほどそれっぽい。
原典を読むと、この部分はモンテーニュ自身による発言ではない。「vieux Caton(Cato the Elder/大カトー)」という人の言葉を紹介しているだけなんですね。これをモンテーニュ発の格言と言うのは正確さを欠くと思う。大カトーえらいよ大カトー。
そして、チェーホフの諺も、大カトーの発言が訳されて広まったものではないか、と考えている。
「学識のある人は学びたがり、無知な人は教えたがる」
これは、フランスのエドゥアール・ル・ベルキエによるものとされている。しかし、そもそもエドゥアール・ル・ベルキエって誰よ。人すら特定できないググり力の弱さ。「禁句家」と添えられている場合もあるけど、禁句家ってなんだろう。あれか、Twitterのプロフィール欄に「毒舌注意」て書いてそうな人のことか?
これについては、英語で探せば原典が見つかるよ!と言っている人がいるところまでは確認。しかし、ベルキエのつづりが分からない。
「人間の病はね、人にものを教えたくなることだよ、人の教師になりたがることだよ」
はてなid:rider250さんによると、孔子も似たようなことを言っているらしい。
http://b.hatena.ne.jp/rider250/20140314#bookmark-186336914 より引用
これも見つけることが出来なかった。教えてid:rider250さん!と言ってもはてなブログ・ダイアリーじゃないのでメッセージ届かないのだけど。
「にわかな奴ほど語りたがる」
高林哲さんというITエンジニアの方が、いやな法則として発表したものです。
他の例と比べて異なっている点として、愚者ではなくてにわかである点です。賢者であっても、にわかとなりえます。よって、当該ブログエントリでは、ポジティブな利用例も挙げられています。
一方、知人は「論文は少しでも成果が出たらすぐ書き始めるに限る。しばらく経つとぼろが見えたりしてどうでもよくなって、書かなくなるから」という習慣を確立して生産性を高めていました。こちらは「にわかな奴ほど語りたがる」のポジティブな応用例と言えそうです。
まとめ
上記の出典が分からないものリストについて、書籍名(とできればどのセクションに書いてあるか)を教えてください!
似たような格言で、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」(ビスマルク)とかはすぐ見つかるのになあ。
ビスマルクの格言で一番好きなのは、「ソーセージと法律の作り方を知る人は、もはや安眠することが出来ない。」です。ソーセージ!大どろぼうホッツェンプロッツ!